東京地方裁判所 昭和33年(行)153号 判決 1959年3月11日
原告 伏屋正夫
被告 国
主文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「(イ)一宮税務署長が原告に対し昭和三十三年四月十六日になした法人税、及び、源泉徴収所得税等の課税処分(滞納者訴外共栄織物合名会社、滞納金額合計金六四三、七一八円につき国税徴収法第二十九条によるもの)、(ロ)右課税処分に基き、岐阜北税務署長が昭和三十三年六月十三日になした岐阜市問屋町一丁目二十一番地家屋番号同所六十八番木造瓦葺二階建店舗建坪十一坪七合七勺二階八坪、及び、岐阜二局六五四七番電話加入権に対する各差押処分は、いづれも無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和三十三年四月十六日一宮税務署長より、原告が訴外共栄織物合名会社の社員であるとして、同会社の昭和二十四年度より同二十八年度分迄の法人税、源泉徴収所得税の各本税、利子税、延滞加算税の各未納分合計金六四三、七一八円を同年四月二十八日迄に納付すべき旨の納付通知を受け、更に、同年六月十三日岐阜北税務署長は右税金の滞納処分として原告所有の請求趣旨記載の不動産、及び、電話加入権の各差押処分を為した。しかしながら、原告は右訴外会社とは何らの関係もなく、勿論その社員でもないのであるから、被告の右各処分は当然無効なものである旨陳述した。(証拠省略)
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、原告が訴外共栄織物合名会社の社員でなく同会社とは何らの関係もないとの点、本件処分が無効であるとの点はいづれも争うが、その余の原告主張の事実は認めると述べ、被告の主張として、原告は右訴外会社の社員であり、仮に、社員でないとしても、訴外会社の商業登記簿には原告が昭和二十五年六月一日同会社に社員として入社した旨の記載があり、本件各処分は右商業登記簿の記載に基き原告を訴外会社の社員であると認めて為されたものであるから、そのかしは客観的に明白であるとは言えず、そのかしは本件各処分の取消原因とはなつても、当然無効の原因となるものではない旨陳述した。(証拠省略)
原告訴訟代理人は被告の右主張に対し、訴外会社の商業登記簿に被告主張のような登記がある点は認めるが、右は訴外宮川秋敏が原告に無断で、原告の印鑑を冒用して、ほしいままに登記手続を為した結果によるものである旨述べた。
理由
原告に対し、原告が請求原因において主張している通りの各納付通知、及び、滞納処分としての各財産差押が為された事実、及び、訴外共栄織物合名会社の商業登記簿に原告が昭和二十五年六月一日同会社に社員として入社した旨の登記のある点は、いづれも当事者間に争いない事実である。
原告は、右訴外会社の商業登記簿上の記載は、訴外宮川秋敏が原告の印鑑を冒用し、原告に無断でなしたもので、原告は同会社の社員でないから、社員でない原告に対し同会社の税金につき滞納処分を為したのは無効の処分である旨主張し、証人宮川秋敏の証言によると、前認定の登記は、訴外宮川秋敏が原告に無断で為したものであつて、原告は右訴外会社の社員でなく、従つて、右登記は虚偽の事項の登記であることを認めることができるけれでも、この登記が真実に合していないことを本件各処分庁が知つていたということ、或はまた、簡単な調査によつて右登記が真実に合していないことが判明する筈であつたとの特別な事情があつたことを認めるに足る証拠のない本件においては、右原告主張のような事由は、客観的に明白なかしがある場合ということはできないから、これを本件各処分の取消事由とするならば格別、直ちにこれを本件各処分そのものの無効を来す事由ということはできないものと解する。
果してそうであるならば、本件各処分の無効確認を求める原告の請求は、結局その理由ないものと言う外ないから、原告の請求を棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)